プロフィール メッセージ ミュージアム アーティスト アワード・応募要項、選考結果 エントリー・事業パートナー募集要項
メッセージ HOME
前ざぶん賞実行委員会会長(2003〜2008)
ジャーナリスト
筑紫哲也 筑紫 哲也

 テレビ番組の中で、私は「Go Slow! スローで行こう」という特集をしました。たいへんな反響がありました。
 1945年(終戦時)の日本人の平均寿命は驚くべきことに、男性23.9歳。女性37.5歳でした。しかし、現在は男性78歳、女性84歳です。もう人間そのものがスローライフになってきているといえます。1960年を起点にして、日本は経済に専念する国になりました。そこでは、経済が目的になってしまい、その目的達成のためにいろいろなことが手段になりました。経済成長のため、たくさんのものを犠牲にしてきたのではないでしょうか。家族関係も、教育も変わりました。さらになによりも壊してしまったのは、自然環境です。
 経済は大切ですが、手段のひとつです。豊かでありたい、安心して暮らす、しあわせに暮らす、その目的の手段であるはずです。どんな意味をもって生きるのか、どれだけ心を充実させるのか、それが目的ではないでしょうか。
 海外から戻ってきた日本人の中で、「日本ほど子供の目が死んでいる国はない」と言う方が多くいます。映画監督の宮崎駿さんは、子供の目に光を取り戻すには、子供を一週間、自然の中に戻せばいいと言われます。ただし大人は世話を焼くな。ひっくり返りそうな時だけ手を差し伸べ、あとは子どもが好きなようにさせるだけでいいと。
 ところが、少し前までは、日本の子供たちにとって、海や川がとても近い存在でしたが、きれいな海や川が減り、大人たちも危険だからという理由で遊ばせなくなりました。自然と私たちの距離が広がっています。
 世界の中でも、こんなに子供たちが外で遊んでいない、自然と接していないという国は他に見当たりません。都市部だけでなく、近くに自然が残っている田舎に暮らしている子供たちですら、人工の守られた環境の中に生活しているのが現状です。これも経済に専念した日本の実態です。
 中でも、水はなくてはならない存在ですが、その一方、洪水、津波、断水など大きな災害を引き起こすものでもあります。ここ数年の大きな自然災害も、人類が招いた地球温暖化の影響でしょうか。わずかでも災害に接した人はもちろんのこと、自然と接すれば、人間の力ではどうにもできないことがある、ということを体感できます。自然を遠くから見ているだけでは痛い、寒いという実感が湧きません。人間も自然の一部であることを知ってこそ、命の尊さや助け合う心が育まれるのではないでしょうか。そして、簡単に殺人を犯したり、自殺することもなくなるのではないでしょうか。
 廃棄物でいっぱいになった島、生態系が急変したといわれる海、いくらきれいにしてもすぐにゴミでいっぱいになる川、水の争いが起こる可能性が高まる世界、それが21世紀です。そして、そんな時代に成長する、未来のある子供たち…みなさんはどのようにお考えでしょうか。
 生命の源である水を通して、私たちの生き方や、地球とのかかわりを考えていこうという試みが、この「ざぶん賞」です。回を重ねるごとに、まさに波紋のごとく広がりを見せてきました。
主役は未来を担う小中学生です。自然と接し考える事で、お金に代えられないものがあることを、ぜひ知ってもらいたい、そして豊かな心を育み、新しい時代を築いてもらいたいと思います。

●Profile
大分県生まれ。
1959年早稲田大学政経学部卒業。
同年 朝日新聞社入社。米軍統治下の沖縄特派員、東京本社政治部記者、ワシントン特派員、外報部次長、「朝日ジャーナル」編集長、ニューヨーク駐在、編集委員などを経て、'89年同社を退社。同年TBSテレビ系 筑紫哲也NEWS23のキャスターになり、 国際派のジャーナリストとして活躍。著書は『マイ・アメリカン・ノート』『メディアの海を漂流して』『多事争論』『このくにのゆくえ』『日本23時:今ここにある危機』『ニュースキャスター』など。'03年ざぶん賞実行委員会会長に就任。